大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)239号 判決 1953年1月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士川添清吉の上告理由第一点について。

原審の昭和二四年八月二九日午後一時の判決言渡調書には「裁判長は判決原本に基き主文を朗読して判決を言渡した」と明記されている。そして判決の言渡の方式が民訴一四七条にいわゆる口頭弁論の方式に該当することは多言を要しないところであつて、同条は口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書に依りてのみ之を証することを得る旨明定しているのであるから、右調書の記載に反する口頭弁論の方式に関する事実を主張する論旨は理由がない。

同第二点について。

記録によると原審における口頭弁論の終結の後である昭和二四年八月二六日被上告人(控訴人)の代理人が「準備書面」と題する書面を原審に提出し、原審は同書面を記録に編綴しながら、その副本を上告人(被控訴人)の代理人に送達した形跡のないことは所論のとおりである。しかし、口頭弁論終結後に単に提出されたに過ぎない所論の書面の如きは民訴二四三条に所謂準備書面に該当しないことは勿論、これを判決の資料とすることをも得ない。記録によるも原審が右書面の記載を判断の資料として採用した形跡の何等認められない本件においては、所論の書面を上告人に送達しなかつたのは当然であり、原判決には何等所論の如き違法は存しない。論旨は理由がない。

上告代理人弁護士椎津盛一の上告理由について。

所論の「上告人は本件不動産の売買契約の締結及びその代金支払に関し上告人を代理する権限を加藤辰次郎(補助参加人)に付与し同人はその代理権限に基き本件不動産の売買契約を締結した旨」の事実は原審の否認しているところであることは原判決の全趣旨に徴し、殊に、原判決が所論のような代理権を上告人が加藤辰次郎に付与したとの事実を全面的に否認している第一審証人加藤辰次郎の証言を証拠として採用し且つこれに反する証拠をすべて排斥しているところから見ても明らかである。そして原判決が特に第一審における「加藤辰次郎は被控訴人(上告人)の恩義に報いるため金五十四万円を融通し控訴会社(被上告人)の取締役那須忠良と折衝して被控訴人(上告人)のため本件売買契約を締結した」旨、即ち論旨の所謂上告人は加藤辰次郎に対し被上告人との間の本件売買契約につき代理権を附与し、加藤は右代理権に基いて本件売買契約を締結した旨の上告本人の供述は措信し得ないとしてこれを排斥しているのみならず、更に原判決が事実認定の末尾において、「右各認定に反する冒頭掲記の上告人(被控訴人)提出の各証拠はいずれも採用し難い」と判示しているところを看れば、原審は原判決理由の冒頭に掲記している甲第一一、一二号証の記載内容の中には前記原審の認定に反する部分もあるが、論旨の如く加藤が上告人の代理人として本件売買契約を締結した事実を認定するには不十分で特に掲記する程度のものでないとしつつ、他の証拠と共に之を排斥したこと明らかである。論旨は理由がない。

上告代理人弁護士阿保浅次郎の上告理由第一点について。

裁判所が当事者の提出にかかる書証として事実認定の資料となし得るものは、口頭弁論において提出され且つ証拠調をなされた文書に限り、口頭弁論に提出せられないものは、これを証拠となし得ないこと言う迄もない。従つて記録によるも特にその提出があつたと認められない口頭弁論調書の一部である証人江馬嵩の訊問調書が弁論終結後にいたつて、所論の乙第一四号証の写の一部として提出されたからといつて、右の部分の原本又は写が認定資料となり得ないこと勿論である。しかし原審口頭弁論において提出せられた乙第一四号証の写は別に明らかに記録に添綴せられているのであるから、口頭弁論終結後に右の様な提出があつたからと言つて、原審が当然右の部分の写を乙第一四号証の中に含めて判示事実を認定する資料に供したものということにはならないことは勿論、原審が所論の写を判示事実の認定資料に供したと認むべき形跡は記録上これを発見することができない。論旨は原審がなさなかつたことをなしたと前提して原判決を非難するに帰し、採用に価いしない。

同第二点について。

しかし、原審は本件不動産の買主は上告人ではなく、参加人加藤辰次郎であると認定しているのであつて、原判決挙示の証拠によれば原審のこの認定は十分首肯できるのであるから、原審はさらに所論のような何故に料理店営業について上告人名義で許可を得たのか右営業の計算が何人に帰するのか等について判示するの必要はないものといえる。また所論の甲第一号証については原判決の理由中において上告人の主張事実を認定する資料になし得ないものとして排斥しているのであり、これと同時に所論甲第二乃至四号証についても上告人の主張事実を認める資料となすに足らない旨黙示的に判示していることは、判文上これを窺うことを得るから原判決には所論のような判断遺脱の違法はない。論旨は理由がない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い全裁判官の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例